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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)568号 判決

被告人

山内平吉

主文

本件控訴を棄却する。

理由

司法警察員田川八十四郞作成に係る被疑者山内平吉の第一回供述調書中、百四十丁八行目より九行目にかけ「その後」の下に「帰」の一字、百四十一丁一行目の冐頭「四」の一字、同九行目「淸太郞とで」の下に書きかけの一字、百四十二丁六行目「話を」の下に「稻」の書きかけと認められる一字、百四十四丁十一行目「方に」の下に「宿」の書きかけと認められる一字、百四十六丁三行目の冐頭「現金」の二字、百四十七丁裏三行目「申」の下に「芒」と書きかけた一字、百五十丁裏七行目「別に申」の下に「訳有」の二字が何れも削除せられ、百四十二丁十一行目「」が「そ」と、百四十三丁四行目「云つ」が「行つ」と、百四十四丁一行目「さん」が「も」同裏十一行目「が」が「を」と、百四十六丁七行目「薄」の書きかけと認められる字が「うす」と百四十七丁裏十二行目「羽」が「川」と、百四十九丁十行目「所」が「処」と、同裏三行目「遅」が「遅」と何れも訂正せられ、百四十八丁十一行目「私に」の下に「その」の二字が加入せられてあり、又同司法警察員作成に係る杉山正一の第三回供述調書中、六十三丁裏四行目「田島光男と」の下に「水田」の二字、六十四丁裏四行目「岩田田島」の下に「林」の一字が何れも削除せられてあつて、その中百四十九丁裏三行目の「遅」の字の訂正個所には作成者の認印も挿入削除の字数の記入もなく、その他の個所には作成者田川八十四郞名下の認印と同一と認められる「田川」なる認印が押されているが挿入削除の字数の記入がないことを認める。しかしながら刑事訴訟規則第五十九條の規定は旧刑事訴訟法第七十二條の規定と同趣旨で、調書における文字の挿入削除が法定の要式を欠いた場合でも、直ちにこれを無効とすべきでなく、その効力の有無は、專ら裁判所が諸般の状況を勘考して、自由の裁量によつて決すべきである。今右挿入削除の個所を檢討するに、挿入文字の筆跡は他の部分と全く同一と認められるのみならず、その挿入削除により始めて文意が通ずることも明かである。而も百四十九丁裏三行目「遅」の字の訂正個所を除けば他は何れも單に字数の記入を欠くに止るが之れも各挿入削除の個所の形跡と文意よりしてその字数が極めて明白である。唯百四十九丁裏三行目の訂正個所には認印も字数の記入もないが、これは一旦「遅」の字を書いたところ拙なかつたために更に明確にするために之を削除して別に「遅」の字を加入し以て訂正した事が明瞭に看取せられ得る。されば右挿入削除は何れもその調書の作成者によつて正当になされたものと解するのが相当であつて右挿入削除の文字は有効にその調書の内容をなすものというべく、結局、前記調書の違式は判決に影響を及ぼさない事明白である。

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